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卵巣のう腫について

医療法人みらいグループ

卵巣に異物が蓄積し風船のように膨らんでいく卵巣のう腫という婦人科疾患をご存知でしょうか。良性でサイズが小さければ問題のないケースもありますが、重症化すると茎捻転や破裂、肥大化、がん化、不妊などのさまざまなリスクがあります。

卵巣のう腫とは

卵巣のう腫とは

卵巣のう腫とは、卵巣腫瘍の一種で卵巣に異物が蓄積し風船のように大きく膨らんでしまう疾患を指します。

卵巣は細胞分裂が盛んなため、比較的腫瘍の発生しやすい臓器です。腫瘍ができやすいものの良性のものが大半をしめ、80~90%が良性の卵巣のう腫と言われています。しかし、良性・悪性の判断は検査を重ねて慎重に行う必要があるでしょう。

卵巣は沈黙の臓器と呼ばれることもあり、何らかの疾患があっても自覚症状が起こりにくい傾向にあります。そのため、気付かない内に卵巣のう腫が大きくなっていたり、重篤な症状が出て初めて卵巣のう腫になっていたことが分かるケースも少なくありません。違和感に気付きながらも放置した結果、卵巣のう腫が10kg以上の大きさになっていたという事例も珍しくない婦人科疾患の一種です。

卵巣について

卵巣は、卵子を生産する役割を持つ生殖器のひとつです。数百万の原子細胞を持ち、毎月卵子を排出します。卵巣が排出した卵子が卵管に入り込み精子と受精し、子宮内に着床することで妊娠が成立する仕組みです。

そのほか、ホルモンの分泌作用も担っており、女性の妊娠や月経に深く関わりを持つエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンも卵巣から分泌されています。

卵巣腫瘍の充実性腫瘍

卵巣腫瘍の80~90%は良性の卵巣のう腫と言われていますが、残り10~20%の腫瘍は充実性腫瘍と呼ばれます。
充実性腫瘍は、卵巣のう腫と異なり触れると硬さがあるのが特徴です。悪性腫瘍、つまりがんであることも少なくありません。卵巣にできた悪性腫瘍を、卵巣がんと呼びます。

卵巣がんは卵巣のう腫と同じく、自覚症状がほとんどないのが特徴です。下腹部の違和感、腹水(腹部に水が溜まること)などから発覚するケースが多い傾向にあります。

卵巣のう腫の種類

卵巣のう腫は、のう腫内に溜まる異物の内容によって以下の4つに分類されます。

  • 漿液(しょうえき)性のう腫
  • 粘液性のう腫
  • 皮様(ひよう)のう腫
  • チョコレートのう腫

漿液(しょうえき)性のう腫

漿液とは、粘性を持たないサラサラした分泌液を指します。成分はさまざまですが、いわゆる「水が溜まる」と呼ばれる状態で溜まった液体が漿液です。

火傷などで水ぶくれになった水泡の中に溜まっている液体なども漿液と呼ばれます。漿液性のう腫は、卵巣の表面を覆う上皮から漿液が発生し、卵巣内に蓄積する症状です。

卵巣のう腫の中で、比較的発生頻度が高い症状と言われています。

粘液性のう腫

粘液性のう腫は、卵巣に粘液が蓄積したのう腫です。漿液性のう腫に比べるとドロドロとした粘性の体液が蓄積するため、比較的大きなのう腫を形成しやすい傾向にあります。

皮様(ひよう)性のう腫

皮様性のう腫は、成熟のう胞性奇形腫と呼ばれることもあります。卵巣内で脂肪・髪の毛・歯などの組織が蓄積してできるのう腫です。未だ詳しくは解明されていませんが、卵子が受精していないにも関わらず何らかの要因で細胞分裂を始めてしまうことが原因と考えられています。

卵巣内に蓄積した脂肪や髪の毛、歯などの組織は一つの固まりとなって腫瘍化します。大きくなってくると茎捻転や破裂の危険性があります。

チョコレートのう腫

チョコレートのう腫は子宮内膜症の一種とも言われており、卵巣内に血液が蓄積して肥大化するのう腫です。蓄積した血液が茶褐色に変色し、チョコレートのような色合いに見えることから名付けられました。

基本的に卵巣のう腫は外科的処置を用いて治療を行うことが多いですが、チョコレートのう種だけはホルモン療法などの服薬による治療を選択できる可能性があります。

卵巣のう腫にはそれぞれなりやすい時期がある

卵巣のう腫は、初潮を迎えた女性であれば誰でもなる可能性のある婦人科疾患です。そのなかでも、特に年代ごとになりやすい卵巣のう腫が分かれています。

漿液性のう腫 初潮を迎えている女性であれば年代問わず発症のリスクがある
粘液性のう腫 閉経を迎えた女性に比較的多くみられる
皮様性のう腫 20~30代の女性に比較的多くみられる。
チョコレートのう腫 30~40代の女性に比較的多くみられる

必ずしも上記の年代に限って発症する訳ではありませんが、ホルモンバランスやライフスタイルなどの影響を受けて上記のような特徴が見られることが報告されています。

卵巣のう腫の症状

卵巣は体内の深い部分にあるため、のう腫が小さい内はほとんど自覚症状が無いケースが多いです。しかし、卵巣のう腫が肥大化していくにつれて、以下のような症状が見られることがあります。

  • 下腹部痛
  • 腰痛
  • 腹痛
  • 下腹部の膨らみ
  • 腹部の圧迫感
  • 頻尿
  • 便秘
  • 生理痛が酷くなる
  • 経血量が増える

卵巣のう種が大きくなることで、腹部に触れた際にしこりを感じることもあります。

卵巣のう腫が重症化すると茎捻転や破裂を起こすことも

卵巣のう腫を放置した場合、重症化のリスクとして以下の2つが挙げられます。

  • 茎捻転
  • 腫瘍破裂

茎捻転は、卵巣の根元部分が何らかの要因で捻れてしまう症状です。耐えられない激痛に襲われるのが特徴で嘔吐を伴うケースも少なくありません。症状が酷い場合、ショック症状を引き起こす可能性もあります。茎捻転が起こると卵巣に充分な血液が送り届けられなくなることで、短時間の内に細胞が壊死してしまう可能性が高く、迅速な処置が必要です。

腫瘍破裂は、大きくなり過ぎた卵巣のう腫が体内で破裂してしまう症状です。茎捻転と同じく激痛に襲われ、蓄積していた内容物が体内に飛散することで腹膜炎などの合併症を起こす可能性もあります。

卵巣のう腫の検査方法

卵巣のう腫は、超音波検査などで発見されることが多いです。腹部エコーもしくは経腟エコーで腫瘍の大きさや形などを調べることができます。卵巣のう腫と充実性腫瘍は形などからある程度判別が可能でしょう。

この時点で充実性腫瘍が疑われる場合は、CT検査やMRI検査、腫瘍マーカーなどの検査を用いて卵巣のう種であるのか、充実性腫瘍であるのかを詳しく検査するのが一般的です。また、悪性を疑われる充実性腫瘍の場合は、手術によって組織の一部を取り出し病理検査でがん性の有無などを調べることもあります。

卵巣のう腫の治療方法

卵巣のう腫は悪性が疑われなかったり、のう腫が小さかったりする場合、経過観察を行うケースも少なくありません。特に、漿液性のう腫は自然と漿液が吸収されて縮小するケースも確認されているため、茎捻転や破裂などのリスクが低ければ経過観察を行うことが多いでしょう。

一方で、卵巣のう種の大きさが5~6cm以上の場合は、腹腔鏡手術や開腹手術といった外科的処置を提案される可能性が高いです。特にのう腫の大きさが7cmを超えてしまうと茎捻転の発症リスクが飛躍的に上昇します。

ハイリスクの卵巣のう腫に関しては卵巣の摘出手術などを検討する必要がありますが、妊娠に直接関係する器官であるため、患者の意向が反映されることも多いのが特徴です。妊娠中に卵巣のう腫が見つかった場合、可能な限り妊娠の継続を優先して処置を行うケースや、妊娠を希望しているため経過観察を選ぶといったケースも聞かれます。

また、子宮内膜症の一種とされるチョコレートのう種に関しては、ピルなどのホルモン剤を用いた内服治療に効果が期待できるのも特徴です。今後の妊娠に対する希望や卵巣のう腫によるリスクを鑑みて医師と相談しつつ治療方法を選択するケースが多いでしょう。

卵巣のう腫になっても妊娠は可能?

卵巣は2つあるため、片方が卵巣のう腫になった場合や卵巣の摘出を余儀なくされた場合でも、もう片方の卵巣が正常な機能を保っていれば妊娠は可能です。

また、卵巣のう腫に外科的な処置の必要性がある場合でも、必ずしも卵巣の全摘出になる訳ではありません。卵巣の機能を維持したまま、のう腫部分のみ摘出するケースもあります。

卵巣のう腫になってしまったからといって、必ずしも今後の妊娠が不可能になる訳ではないので、まずは今後の妊娠を希望するのかを交えて、医師に相談するのがよいでしょう。

卵巣のう腫は不妊症の原因になるのか

卵巣のう腫は必ずしも不妊の原因であるとは言えません。サイズが小さく、のう腫が正常な卵巣の働きを害しない場所に出来ている場合は、通常通り排卵を行い妊娠が成立することもあります。

一方で、以下のようなケースでは卵巣のう腫が原因の不妊を引き起こす可能性があるでしょう。

  • のう腫によって正常な卵巣の働きが害されている
  • 子宮内膜症など他の疾患が原因で卵巣のう腫が起きている
  • 卵巣のう腫の摘出手術などで卵巣を摘出してしまっている
  • 卵巣のう腫の摘出手術などで温存した卵巣や卵管の周囲に癒着が生じている

不妊に悩み検査を行ったことで卵巣のう腫の発見に繋がるケースも少なくありません。しかし、卵巣のう腫が必ずしも不妊に関係している訳ではないため、今後の治療方針を医師とよく話合うことが大切です。

卵巣のう腫は治療後の対応も重要

卵巣のう腫のなかでも、特に再発率が高いと言われるのがチョコレートのう腫です。治療によって、のう腫の消滅が確認されていても卵巣を温存している限り再発のリスクがあります。

また、卵巣のう腫が低リスクで経過観察している場合も注意が必要です。経過観察しているなかで、ある時急にのう腫が肥大化する場合には手術を検討します。

治療後や経過観察中は、定期的に検査を受けて再発や肥大化・腫瘍化などの病状悪化がないか調べましょう。

定期検診で早期発見を

卵巣のう腫や充実性腫瘍は、初期段階では自覚症状に乏しく、肥大化し進行してから発見されるケースが非常に多い症状です。だからこそ、定期健診で早期発見することが重要と言えます。

年に1度は婦人科検診を受診することで、卵巣のう腫や充実性腫瘍の早期発見ができる可能性は飛躍的に上昇します。特に30代以降になると卵巣のう種のリスクが上昇するため、定期的な婦人科検診を受けるようにしましょう。